「 日本の森林が危ない! 早急に関連法を成立させよ 」
『週刊ダイヤモンド』 2011年3月19日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 879
過日、民放のニュース番組に菅直人首相が出演したら、視聴率が一挙に下がり、通常の実績の約半分の水準にとどまったことがあった。
視聴率がすべてとは思わないが、国民がいかに菅首相、そして政治を見限っているかを示している。仕事として政治を見続けなければならない物書きの立場でも、現在の政治に注目し続けるのは、苦痛である。
だが、それではいけないのだ。政治への無関心は政治への無責任に通ずる。そう考えて3月8日、参議院予算委員会の議論を取材した。この日、外国資本による日本の森林や水源地の買収に歯止めをかけるための法案が取り上げられることになっていたのも、もう一つの理由だった。
自民党の山谷えり子参議院議員が、自民党はすでに森林改正法案を国会に提出ずみで民主党は今年3月1日に森を守る法律を閣議決定したことに触れ、首相および関係省庁大臣に以降の対策をただした。
鹿野道彦農林水産相は、各党会派の議論を進め、この国会で法案の成立を図りたいと述べるにとどまった。鹿野氏のあっさりした回答に関して、山谷氏はこう語る。
「すでに昨年国会に提出した自民党案は森林の維持が公益上必要だと首長が認めるときは、伐採を中止させたり造林を命ずることが出来る内容になっています。かなりの時間をかけてつくった法案ですので、私たち自民党はそれなりに工夫しました。有り体にいえば民主党より、充実しています。私としては、鹿野大臣が、こうした自民党案を取り入れる気概を見せてほしいと思います」
国土が外資に買われつつあり、国としてなんら歯止めの法律がないことに多くの国民は心配を通り越して憤っている。一日も早く規制する法律をつくり施行すべきなのである。けれど、このような国民の思いは今の民主党には通じていないかのようだ。水源地買収に関して大畠章宏国土交通相は、現在鋭意調査中だとして、こう述べた。
「地方公共団体が地域の実情に応じて条例等により取り組んでいることから、これらの取り組み実態把握に努め、情報提供などにより自治体との連携の強化を図っています」「関係省庁と連携してまいりたいと思います」
地方自治体との連携が重要なのは当然である。しかし、大畠国交相の答弁はいかにも他人事のようだ。本当に、この瞬間にも国土が外資に買われつつあることに危機を感じているのかと問いたくなる。
菅首相に至っては、こう述べた。
「私も、林業再生本部長をやったこともありますけれども、今、戦後植えた木が伐採時期に入っており、日本の林業再生の大きなチャンスだと考えています」
首相の林業再生本部長としての経験は貴重ではあろうが、それが政策にどう活用されているのか、まったく見えてこない。この際、むしろ無関係といってよいだろう。首相はしかし、こう述べたあと、次のように、あっさり結論に至ったのだ。
「政府としても、注意深く適正な土地の利用がなされるよう見守って、必要に応じてなんらかの対応をしてまいりたいと、こう考えております」
「なんらかの対応」として民主党が決めた森を守る法案は各議員が問題意識を持ってつくったというより、閣法、つまり、官僚たちがつくって閣議に上げたものだ。政治主導だと言いながら、結局、官僚依存なのだ。
国家の基盤は国土とその上に住む国民である。今、国家の基盤が次々に売却されている。菅首相のやる気のなさが外資が付け込むスキとなっているのだ。首相は自省し、法案の充実と成立に全力を尽くせ。その気概なしには政治は国民の関心も支持も取り戻せないだろう。